加法から始める巨大数・前編 テトレーション
今回からは関数に焦点をおいて巨大数について紹介します。「三角関数から始める複素関数」の最後で前後編に分けると書きましたが、意外と長くなったので前中後編に分けることにします。
そのために、まずハイパー演算子というものを定義します。ハイパー演算子は無限に存在して1, 2, 3, ...とナンバリングされていて、それぞれ次のように定義されています。
ハイパー演算子は Hyper₁(a,b), Hyper(a,1,b) などと表記されることもあります(むしろそっちが多いかも)。このように定義されたハイパー演算子たちは、互いに次のような関係性があります。
このように、n 番目のハイパー演算子は (n-1) 番目のハイパー演算子を用いて定義できます。Hの右上の b-1 はハイパー演算子を (b-1) 回繰り返す、例えば
H₂(2,4)=H₁³(2,2)=H₁(2,H₁(2,H₁(2,2)))=H₁(2,H₁(2,4))=H₁(2,6)=8
といった具合です。H₂(2,4)=2×4=8なので、確かに一致していますね。
ちなみに1番目のハイパー演算子を表す、0番目のハイパー演算子を H₀(a,b)=b+1 と定義することもできます。ただし、0番目のハイパー演算子を繰り返す回数は b 回となり、その点で他と異なります。
さて、3番目のハイパー演算子まで見てきましたが、4番目のハイパー演算子はどのようなものでしょう。これも他と同じように、次のように定義されます。
これはテトレーションまたは超冪とよばれ、掛け算の拡張と言える冪をさらに拡張させたものとなります。
ただ、毎回指数表記で表すのは大変ですし、ハイパー演算子を書くのもやや面倒なのです。そのため、H₄(a,b)を次のように表すこともあります。
これはクヌースの矢印表記と呼ばれるもので、それにおいて a^b は a↑b と表します。そのため、テトレーションは上矢印を二つ並べた a↑↑b のように表記します。(実は b を a の左上に書く方が一般的ですが、クヌースの矢印表記のほうが本文で書きやすいので今回はこちらを紹介しました。)
そして、加法、乗法、冪という流れから察するかもしれませんが、テトレーションというのは非常に大きい値になりやすいです。
このように 2↑↑3 まではたいして大きくありませんが、2↑↑4 で一気に大きくなり、2↑↑5 になると桁が大きすぎて実質計算できません。
しかし、左の変数が 1 だったりすると右の変数がどんなに大きかろうが 、計算の値は 1 です。つまり 1↑↑∞=1 ということができます。
このように、なにかしらの条件を満たす実数 x に対しては x↑↑∞ を計算することが出来ます。結論をいうと、x↑↑∞ がある値に収束する条件は e^(-e)≦x≦e^(1/e) です。これより小さい正の実数だと振動し、これより大きい実数だと発散してしまいます。
なぜこのようになるかは今回説明するには難しいですし、正直自分も理解していないので省略します。
さて、収束する場合について具体的な値を調べましょう。まず、 x↑↑∞ は次な等式を満たすはずです。
そして y=x↑↑∞ とおくと、
となります。このグラフを書いて見ましょう。
左の点が (e^(-e),1/e)、右の点が (e^(1/e),e) となります。それ以外のところにも曲線がありますが、y=x↑↑∞ ならば y=x^y を満たすが、必ずしもその逆は成り立たないとかそんな感じでしょう。意味はありません。
こうして y=x↑↑∞ のグラフの形は分かりましたが、せっかくなら式で表したいものです。しかし、y=x^y は高校で習うような関数だけでは y=(x の関数) の形で表すことはできません。そのため、高校では習わない新しい関数を使う必要があります。それがランベルトのW関数で、y=xe^x の逆関数と定義されています。
次回はこの続きを行っていきます。ではまた。