加法から始める巨大数・中編 i↑↑∞、2^x=x^2の解
前編はこちら。
前編では x↑↑∞ の値を表すためにランベルトのW関数が必要だというところまでいきました。
ランベルトのW関数とは y=xe^x の逆関数で、y=W(x) と表されます。そしてグラフはこのようになります。
点は (-1/e, -1) です。しかし、よく見ると -1/e<x<0 の範囲で多価関数となってしまっていることが分かります。そのため点を y=-1 から上を W₀(x)、y=-1 から下を W₋₁(x) と区別します。
さて、これを使うことで y=x^y をこのように変形することが出来ます。
参考にしたサイトに書いていなかったので式では明記しませんでしたが、W(x) は W₀(x) のはずです。兎にも角にも、こうして x↑↑∞ を式で表すことが出来ました。
この話の続きはまた後でしますが、一旦中断して複素数の話をします。
W(x) は y=xe^x の逆関数と言いましたが、それは x が実数という前提で話していました。では x が複素数だったら?当然 y も複素数となるケースがでてくるので、変数が複素数であるランベルトのW関数 W(z) を考えることが出来ます。
W(z) の実部を x、虚部を y とすると、z の実部は Re(z)=(e^x)(x cos y -y sin y)、虚部は Im(z)=(e^x)(x sin y + y cos y) となります。
例えば Re(z)=1、Im(z)=0 のグラフはそれぞれ、下の図の赤と青になります。したがって、それらの交点の座標が W(z) の実部 x と虚部 y を表しています。
これからも実数の W(1) が1つしかないことが分かります。しかし、複素数の範囲では、W(1) は無限に存在することが分かります。
他の例も見ておきましょう。Re(z)=-1、Im(z)=0 の場合はこのようになります。これは逆に、実数の W(-1) が1つも存在しないことが分かります。
Re(z)=-1/e、Im(z)=0 の場合はこのようになります。実数の W(-1/e) が W₀(x) と W₋₁(x) の境目になるだけあって、少し変わった形をしています。
このようにして、目測にはなりますが任意の複素数 z に対して W(z) の値が調べられます。
さて、再び x↑↑∞ の話に戻って、サブタイトルにもなっている「i↑↑∞」すなわち i^i^i^… の値を求めていきます。これが収束するかについては、証明してるサイトが見つかりませんでしたが、どうやら収束するそうなのでその事実を使います。
とはいっても、上で求めた公式に x=i を代入するだけです。そうすると、次のような値になります。複素数の対数は主値を用いました。
W(-(π/2)i) の値は、Re(z)=0, Im(z)=-π/2 の場合のグラフ
の最も実軸(x軸)寄りの交点を使って求めました。
具体的な値については近似的に求めることしかできないのですが、もう少しは計算できるようなので別の記事で書くことにします。
さて、x↑↑∞ の話はこれで終わりにしようと思うのですが、最後にもう1つランベルトのW関数の応用を紹介して終わろうと思います。
それは 2^x=x^2 の解です。x=2, 4 は簡単に分かると思います。しかし、グラフを書いて見ると分かるのですが、実は負の実数の解も存在するのです。それを求めるためにランベルトのW関数を使い、次のような計算で求まります。
なお、一行目から二行目の変形では x<0 を使っています。
このようにして 2^x=x^2 の負の実数解を表すことが出来ます。
なお、もっとシンプルに表そうとすると x=-e^{-W(log√2)} となります。簡単ですし面白くないので、証明は省きます。
以上で中編で終わります。タイトルのわりに、全然巨大数出てきませんでしたね(笑)。次回はここまでとは全く関係ない話になりますが、ガッツリ巨大数の話をする予定です。ではまた。