NTMRの数学メモ

数学について調べたことを書きます。高校数学に毛が生えた内容。

円周率は τ ?

 円周率はいくらと聞かれれば、当然 3.14... や π と答えるでしょう。

 しかし、中には π の代わりに τ を円周率に採用すべきだと考える人もいます。τ とは π を 2 倍した値です。 

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 なぜ π より τ がよいのだろうか。それは公式などがより本質的または直感的になるからです。π は「直径に対する円周の比」である一方で τ は「半径に対する円周の比」となりますが、高校数学で普通 直径ではなく半径を r とおくことからも、なんとなく τ がいい気もします。

 

 最大のメリットは一周の角度を τ[ラジアン] と表せられることです。これにより、円周の半分は τ の半分である τ/2、円周の四分の一は τ の四分の一である τ/4 と表すことができます。

 また、同じような話ではありますが半径 r の円周は τr と表すことができ、2πr よりもややシンプルになります。ただし円の面積は (1/2)τr² と、πr² よりもやや複雑になります。しかし物理の公式に (1/2)mv² や (1/2)gt² のような同じ形をした公式もあることがから、そこまで致命的ではないと言われることが多いです。
 簡易的な円の面積の公式の導出で円を扇形に等分して並び替えるものがありますが、それにおいて三角形の面積の公式により (1/2)×τr×r と考えれば、むしろ直感的ともいえるでしょう。

 

 ここまで π より τ が円周率にふさわしいとする有名な根拠を紹介してきました。もちろん教科書が改訂されることはないでしょうが、τ の概念を持っていることで公式が覚えやすくなることもあるでしょう。その例の一つとして、以前紹介した超球の体積があります。

 (下の記事の中で紹介しました。)

 良く知りたい関数たち。 - NTMRの数学メモ

 n 次元空間における半径 R の球の体積は次のように表されます。

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 R の指数が次元と一致し、π の指数が 2 つおきに 1 増えることはすぐ気づくでしょう。しかし、残された係数 1, 2, 1, 4/3, 1/2, 8/15, 1/6, 16/105 は無秩序にも見えます。一応、偶数次元だけみると 1 倍、1/2 倍、1/3 倍、…、奇数次元だけ見ると 2/3 倍、2/5 倍、2/7 倍、…となり、規則性は存在します。ただ全体としては整数の逆数倍と奇数分の 2 倍が入り混じって汚く感じます。

 すべての次元は次の 1 つの式で表せます。f:id:Natsu1014_brog:20210219213333p:plain

 しかし、ガンマ関数は馴染みがなく、使いたくないとなれば偶数次元と奇数次元に分けることで、次のように表すことができます。

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 偶数次元のときはだいぶシンプルですが、奇数次元は…。あまり覚える気にはなりません。これを何とかできないか。

 ここで二重階乗というものを導入します。これも馴染みがないという人も多いだろうが、普通の階乗を知っていれば簡単です。次のように、2 つ飛ばしで掛けていくだけです。

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 念のために計算例を挙げると 6!!=6×4×2=48、9!!=9×7×5×3×1=945 といった具合です。n!! は「n 以下のすべての正の偶数または奇数をかけたもの」と表してもいいでしょう。そして、これらは馴染みのない !! という記号を使わなくても、冪と階乗だけで表すことができます。

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 分からなかったら、具体的な値で試してみると納得できるでしょう。

 さて、これを使うことで奇数次元の球の体積がどのように整理できるのか確かめてみましょう。

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 だいぶシンプルになったのではないでしょうか!通常ならここで終わりでしょう。しかし、今回のテーマ''τ''を用いれば、もう少しだけシンプルにできます。

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 これなら覚えるのも簡単でしょう。ただ、二重階乗や τ を用いて他方の偶数次元の球の体積の公式と統一感がなくなってしまったので、こちらも似た形にできないか試してみましょう。

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 さらに τ=2π を用いると。

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 ほぼ 2k+1 が 2k に置き換わっただけの式となりました。奇数次元の方には 2 が掛かっていますが、これは覚えるしかないでしょう。

 さて、τ を用いて n 次元空間の球の体積を表してきましたが、最後に τ を用いた場合の n=0~7 のときの公式を見てみましょう。

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 τ と R の指数の規則は変更前の π と変わりませんが、残りの係数を見ると 1, 2, 1/2, 2/3, 1/8, 2/15, 1/16, 2/105, ...となります。これを偶数次元だけ見ると 1/2 倍、1/4 倍, 1/6  倍 ...、奇数次元だけ見ると 1/3倍、1/5 倍、1/7 倍...となります。

 つまり 0 次元は 1、1 次元は 2R というのを覚えれば、あとは偶数次元なら偶数の逆数倍、奇数次元なら奇数の逆数倍をしていくことで求められる、ということになります。キレイですね!

 

 そんなところで今回は終わりに…とするつもりでしたが、蛇足を付け加えます。なにかというと、やはり奇数次元のときの 2 が気になる。そして、その原因はなにかというと 1 次元が 2R となっていること。じゃあ、直径を r=2R とおけば 1 次元空間の球の体積を r として、2 を消すことが出来ます。すると、上の表は次のようになります。

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[訂正(2021/02/20)] 5, 6, 7 次元の R は r の誤りです。

 まさにこのためにあったんじゃないか、というほど 2 が綺麗に消えてくれました。これでより統一感のある形で、偶数次元と奇数次元の球の体積を式で表すことができます。でも、せっかくなので統一的に表す方法を考えてみましょう。2k や 2k+1 というのは要するに n のことなので、そのまま置き換えます。問題は τ/4 の指数ですが、床関数(ガウス記号のほうが一般的か)を使うことで解決できます。

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 すべてをシンプルに、かつ統一的に表すことが出来ました…!ただ、こうなってしまうと τ である必要はなくないか?むしろ、直径 r を用いているのだから π を用いた方が統一感があるのでは…?
 ……。

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 τ の有用性を示すつもりが、直径と π を使ったほうがキレイになるとは皮肉な結果ですね。まあ、点を集めて直径になり、直径を集めて円になり、…という過程を考えれば納得いくかもしれません。

 ということで、今度こそ本当に終わりです。ではまた~。