NTMRの数学メモ

数学について調べたことを書きます。高校数学に毛が生えた内容。

放置してた極限の問題について。

 かなり過去の記事で I=\int_0^1(n+m)\,{\rm mod}\,n\,dn というのを考えていました。

natsu1014-brog.hatenablog.com

 最終的に I=- \frac{m^2}2 \left( ζ(2)- \sum_{k=1}^{\lfloor m \rfloor} \frac{1}{k^2} \right) +m- \frac{\lfloor m \rfloor}2 を得て、これは \displaystyle\lim_{m→∞}I=\frac{1}4 となるのではないかという予想をしたのですが、結局証明できないままになっていました。しかし昨夜、ふと思い出して考察したところやや進展(?)があったので、ここに残そうと思います。

 

\sum_{k=1}^{\lfloor x \rfloor} の近似

 問題はこの部分です。\large\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\cdots という無限級数\frac{π^2}6 に収束することはバーゼル問題として知られていますが、部分和 \large\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\cdots + \frac{1}{n^2} を簡潔に表す式は知られていません。

 ですが、今は詳細な値が分からなくても極限が計算できればよいので、たとえばはさみうちの原理を使えばよいのではないかと考えました。

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 上の赤、青、緑のグラフはそれぞれ y=\sum_{n=1}^{\lfloor x \rfloor} \frac{1}{k^2},\,y=\frac{1}{x^2},\,y=\frac{1}{(x-1)^2} を表しています。ここで、平方数の逆数和は赤色の領域の面積になります。ですから、次の等式が成り立つはずです。

  \int_1^{\lfloor k \rfloor} \frac{1}{x^2} dx \lt \sum_{n=1}^{\lfloor k \rfloor} \frac{1}{n^2} \lt 1+ \int_2^{\lfloor k \rfloor} \frac{1}{(x-1)^2} dx

 実際にグラフにしてみると、確かに挟んでいることを分かります。

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 しかし、挟めてるとはいえ微妙な精度です。一応、I を挟めるか試してみますが……

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 これはひどいここまで振る舞いが変わるものなのですね。

 

収束値の補正

 無知ながら、なぜこんなことが起きたのか考えると、やはり平方数の逆数の部分和を挟む時点で収束値がズレすぎていたせいではないかと思いました。そういえばオイラーの定数と呼ばれる \displaystyle γ=\lim_{n→∞} \left( \sum_{k=1}^n \frac{1}k -{\rm ln}(n) \right) ≒0.5772 は調和級数自然数の逆数和)の近似とのズレを表すものでした。では、平方数の逆数和の場合にもこういうものがあるのでは?と考え、オイラーの定数と同様にズレを計算したところ、次のようになりました。

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 当然ながらズレはある値に収束するようですが、その収束先と考えられる青い線は実は y=\frac{π^2}{6}-1 です。証明方法は知りませんが、とりあえずこれを信じて、平方数の逆数の部分和を下から押さえる関数を補正すると次の通りになりました。

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 収束値が一致するのは当然ですが、これはなかなかの精度で \sum_{n=1}^{\lfloor k \rfloor} \frac{1}{n^2} の精度といえるのではないでしょうか。これを用いて I を近似してみましょう。

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 完ぺきとは程遠いですが、先ほどまでの荒ぶり方と比べたらだいぶおとなしくなりました。ちなみに、この近似は 0 に収束することは案外簡単に示せます。なぜなら少し変形すると y=- \frac{(x-\lfloor x \rfloor)^2}{2\lfloor x \rfloor} と表され、分子は 0 以上 1 未満であるからです。

 

お手上げ

 さて、だいぶ近づいてきましたがここで行き詰ってしまいました。もう残りは結果ありきの考察になってしまいますが、さらに \sum_{n=1}^{\lfloor k \rfloor} \frac{1}{n^2} の精度を上げるとなると、近似式に \int_{\lfloor k \rfloor}^{\lfloor k \rfloor +1} \frac{1}{x^2}dx を加えることを思いつきます。(たとえば \lfloor x \rfloor =3 のとき下の領域の面積です。)

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 しかし、この近似式は収束値の補正のために \frac{π^2}6 を加えてあるので、これだと明らかに超過してしまいます。なので、これをそのまま加えるのではなく、二分の一倍して加えてみましょう。すると、近似式は  y=\frac{π^2}6-\frac{1}{\lfloor x \rfloor}+\frac{1}{2\lfloor x \rfloor \left( \lfloor x \rfloor +1 \right) } となり、グラフは次の青線のようになります。

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 修正前が紫線だったので、かなり精度が上がっているように感じます。そして、これによって I=- \frac{m^2}2 \left( ζ(2)- \sum_{k=1}^{\lfloor m \rfloor} \frac{1}{k^2} \right) +m- \frac{\lfloor m \rfloor}2 を近似し、グラフにすると次のようになりました。

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 だんだん近づいているのが分かります。そして、これが \frac{1}4 に収束することは次の計算から簡単に分かります。

  - \frac{m^2}2 \left[ ζ(2)- \left( \frac{π^2}6-\frac{1}{\lfloor m \rfloor}+\frac{1}{2\lfloor m \rfloor \left( \lfloor m \rfloor +1 \right) } \right) \right] +m- \frac{\lfloor m \rfloor}2 \\ =\frac{m^2}{4 \lfloor m \rfloor \left( \lfloor m \rfloor +1 \right)}- \frac{m^2-2m \lfloor m \rfloor + \lfloor m \rfloor ^2}{2 \lfloor m \rfloor} \\ ={\large \frac{1}{4 \frac{\lfloor m \rfloor}m \left( \frac{\lfloor m \rfloor}m +\frac{1}m \right)}-\frac{\left( m- \lfloor m \rfloor \right)^2}{2\lfloor m \rfloor}} \\ → \frac{1}4 \hspace{10pt} \left( m→∞ \right)

 

 一応それっぽい近似式作って、欲しい結果も得られたので、まだ何かするとすれば証明くらいでしょう。でも、なんだか難しそうなので、僕にできるのはここまででしょう。まあ、何か進展があればまた書きます。もし間違いがあったり証明方法を知っている方がいればコメントお願いします。

 では今回はこのへんで。 おわり